時間の距離 ー動かない点Hとしての弘前ー葛西優人

15 歳の冬の頃から意識的に写真を撮るようになった。

通学路の道のりで撮られた、弘前の風景も写っている。同級生も撮っていたようだ。

2003 年頃の当時はインターネットの黎明期ではあったが、私にとっての当時の美術は紀伊國屋書店の本棚と中学校の美術の授業であった。

芸術書や教科書に載っている小さな印刷の写真や絵画は、広い世界そのものであり、PC のディスプレイはこれから 拡がっていく街や社会をも予期させた。

十数年に像を結んだ写真を見つめ返すと、そこには明らかな時間の距離が存在していることに気づく。 当時は意味を持たないと思っていた写真が、ふと意味を帯びたり、記憶の薄れにより消失したりする。

弘前は私にとって、時間の距離や、変化すること―しないこと―を測る起点である。 私の内部で興った、なにかのはじまり―を記憶している街でもある。 これからも変わることはないだろう。

十数年間という時間の距離を未来の方向へ向けた時、どのような像を結ぶのか考えている。

 

付け加えると、潘くんの写真は中学校の卒業アルバム以外に見当たらなかった。
撮り損ね—というのも写真の一部なのかもしれない。
記憶だけが置き去りにされ、時間だけは等速に伸びていく。モノクローム写真の中の薄い色彩と、遠くになった時間が極端に強いパースを描いているように見えた。

 

写真家・葛西優人と潘逸舟は、弘前の中学校時代の同級生である。2020年、弘前れんが倉庫美術館の開館記念展「Thank You Memory —醸造から創造へ—」への潘の参加をきっかけとして二人は弘前で再会した。葛西は潘との再会をきっかけに、弘前で撮られた過去の写真を振り返ることになった。

葛西優人
1988年、青森県弘前市生まれ/在住。
2013年にセクシュアリティーや自身の葛藤をテーマにした作品で、第 9 回写真「1 WALL」グランプリ受賞。 隠された人の心理や問題、人と人との関係性、などをテーマに逆説的なアプローチを多用し作品を製作している。主な展示に Sail to the Moon(2014, ガーディアンガーデン)、Multiple #1_#2(2015, Ken Nakahashi)などがある。

© 2020 Hirosaki Museum of Contemporary Art

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